破産した会社の元従業員に支払った退職金の所得税について,
破産管財人が源泉徴収をすべきかが争われた税務訴訟で,
最高裁第二小法廷は判決を言い渡されました。
同判決は,国税が勝訴していた第1審・控訴審の判決を破棄し,
破産管財人には,元従業員に支払う退職金について,
源泉徴収義務はないとして,納税告知処分を取り消しました。
(最高裁第二小法廷平成23年1月14日判決)
最高裁判所のホームページによれば,
判決理由は,以下のとおりです(以下,引用です)。
「所得税法199条の規定が,退職手当等(退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与をいう。以下同じ。)の支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのも,退職手当等の支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである(前掲最高裁昭和37年2月28日大法廷判決参照)。
破産管財人は,破産手続を適正かつ公平に遂行するために,破産者から独立した地位を与えられて,法令上定められた職務の遂行に当たる者であり,破産者が雇用していた労働者との間において,破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係に立つものではなく,破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配当をする場合も,これを破産手続上の職務の遂行として行うのであるから,このような破産管財人と上記労働者との間に,使用者と労働者との関係に準ずるような特に密接な関係があるということはできない。また,破産管財人は,破産財団の管理処分権を破産者から承継するが(旧破産法7条),破産宣告前の雇用関係に基づく退職手当等の支払に関し,その支払の際に所得税の源泉徴収をすべき者としての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しない。そうすると,破産管財人は,上記退職手当等につき,所得税法199条にいう「支払をする者」に含まれず,破産債権である上記退職手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではないと解するのが相当である。」
源泉徴収義務については,昨年,ホステスの源泉徴収でも,
納税者勝訴の判決が言い渡されています
(最高裁判第三小法廷平成22年3月2日判決)。
また,ここ数年,源泉徴収義務をめぐる判決では,
・レポ取引事件(東京高裁平成20年3月12日判決・最高裁第三小法廷平成20年10月28日決定)
・造船会社が契約解除に伴い支払った金員(大阪高裁平成21年4月24日判決)
・執行役員を退任した執行役に支払われた退職金(大阪高裁平成20年9月10日判決)
など,さまざまな事件で,国税が敗訴しています。
源泉徴収は,本来の納税義務者に代わって,民間企業等に,
支払いの際に税の徴収を代行させる制度です。
租税法律主義のもとでは,源泉徴収すべきこと,計算方法が,
明確にわかる法律の条文の手当てが必要だということでしょう。
【税務訴訟の拙著】
※ 税務訴訟の判例や実務を1冊にした体系書
木山泰嗣「税務訴訟の法律実務」(弘文堂)
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木山泰嗣「小説で読む行政事件訴訟法」(法学書院)
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http://www.mizuhosemi.com/22-1333/seminar/hierarchy/president/6054
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