福岡地裁および福岡高裁で,納税者勝訴の判決がでており,
近年,下級審判決としては話題になっていた養老保険事件の
最高裁判決が出ました。
最高裁第二小法廷平成24年1月13日判決です(裁判所HP)。
第1審,控訴審と異なり,逆転で国側が勝訴となりました。
所得税法34条2項は,一時所得から控除できる費用について,
「その収入を得るために支出した金額」とあるだけで,
本人が負担した保険金に限るという文言はないため,
法人が負担した保険金でもこれにあたり控除できる,
というのが第1審および控訴審の考え方でした。
最高裁判決は,この条文は,「当該収入を得た個人において
自ら負担して支出したものといえる場合でなければならない」
と判示しました。
ごくふつうに条文を読む限りは素直な解釈であると思います。
また,原判決(福岡高裁)は,通達(所得税基本通達34-4)を
法律に準じて「租税法律主義」(課税要件明確主義)を適用して
いましたが,本来的には「法律」である所得税法34条2項の
文言を租税法律主義に沿って解釈すべきことになります。
なかなか画期的な判断で福岡高裁の論理もよかったのですが,
本件については所得税法34条2項の解釈として拡張とまでは
いえないでしょうし,法人税でも損金算入でき,所得税でも
経費として控除できるという結論の問題点もあったため,
このような最高裁の結論が出されたことは,武富士判決を下した
最高裁第1小法廷としても,ありの考えだったのかもしれません。
須藤裁判官の補足意見も勉強になります。
同裁判官は税務案件で補足意見をたくさん書かれていますが,
このような説明があると,納税者にとっても,実務家にとっても,
研究者にとっても,判決を読む手がかりが増えるため,
ありがたいことだと思います。
本件は,下級審と最高裁で判断が分かれるほど,
法解釈についてむずかしい問題が呈された事件ですが,
租税法律主義とは何かを改めて考えさせられました。
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