「競馬・馬券の払戻金の判決」について
馬券の払戻金について話題を呼んでいた刑事事件の判決が,
本日言い渡されたようです。
結論は有罪ですが,所得区分(所得分類)については,
下記報道によれば,検察官主張の「一時所得」ではなく,
弁護人主張の「雑所得」の認定を行ったようです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130523-00000022-mai-soci
(毎日新聞)
判決文をみていないので詳細はわかりませんが,
上記報道によれば,競馬の馬券の払戻金が,一般的には
「一時所得」にあたること(所得税基本通達34-1(二)にも
その旨の規定があります)は,前提としたうえで,
本件のような継続性があるものについては,
「一時所得」とはいえないとして,「雑所得」と判断したようです。
一時所得の要件は,所得税法34条1項に規定があります。
①他の8種類の所得(一時所得・雑所得以外)にあたらないこと
②営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の
一時の所得であること
③労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を
有しないものであること
3要件すべてを満たす必要があり,いずれも消極要件です。
本件は②を満たさないという判断かと思われます。
そうすると,他の9種類の所得にあたらないことになる結果,
バスケット条項としての「雑所得」(所得税法35条1項)になる,
ということになります。
所得税法が定める「所得区分」は,10種類あります。
どの所得にあたるかで,税額が変わるため,
本件に限らず,昔から税務訴訟で争いが絶えません。
所得税法は,そもそも,「○○」は「○○所得」と,
具体的に定めているわけではありません
(「給与所得」を定めた所得税法28条1項は例示列挙
をしていますが,それでも,「これらの性質を有する給与」
という要件があり,これは,抽象的なため,該当性が争わ
れる訴訟がよくあります。)
その所得が,どのような原因で,どのような理由で,
どのようにして得たものなのか,担税力はどうか,
こうした観点から,最終的な所得区分は決まります。
そもそも,「競馬の払戻金=すべて一時所得」という
発想の仕組みではないのです。
過去に争われたストック・オプションの利益についても,
所得を得た原因等により,さまざまな所得区分になります。
刑事事件の判決が「雑所得」と理由で述べたことで,
所得区分そのものが争いの軸になっていると思われる
行政事件(処分取消訴訟・税務訴訟)の結論がどうなるか,
注目されます。
なお,税法における「所得区分」は,当然ながら,
通達ではなく,所得税「法」の解釈と適用により確定します。
所得税基本通達34-1に,
「次に掲げるようなものに係る所得は,一時所得とする。」
とあり,その1つとして,
「競馬の馬券の払戻金」(同通達34-1(二))とあっても,
「一時所得」を定めた所得税「法」34条1項には,
そのような記載はなく,上記3つの要件があるのみです。
したがって,裁判所の判断は,しごく当然のものであり,
法の要件を丁寧にあてはめた帰結ということができます。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130523/waf13052322510036-n1.htm
(産経新聞)
もっとも,こうした判断が確定した場合(特に処分取消訴訟
でそのような判断がなされ確定した場合),上記通達の
規定は不十分な記載になるため,この点の改正は必要に
なってくる可能性があります。
一時所得は「2分の1課税」(所得税法22条2項2号)
であるため,通常は,納税者が一「時所得」を主張し,
課税庁が「雑所得」を主張することが多いです。
今回は,所得から控除できる経費的なものの範囲が
争いになり,それ次第で税額が大きく変わる事件でした。
一時所得の場合は,控除できる額は,
「その収入を得るために支出した金額」で,
かつ「その収入を得るために生じた行為をするため,
又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した
金額に限」られています(所得税法34条2項)。
これに対して,雑所得は「必要経費」を控除すると
されており(所得税法35条2項2号),このあてはめを
めぐり本件は,「一時所得」か「雑所得」が争われました。
もっとも,あくまでこの判決は,脱税(所得税法違反)を
問うた「刑事事件」です。
馬券の払戻金の「所得の性質」(所得区分)は,
まだ判決の出ていない処分取消訴訟,つまり,
民事事件(行政事件)で結論が出ることになります。
【関連書籍】
『税務訴訟の法律実務』(弘文堂)
http://www.amazon.co.jp/dp/4335354762
『税理士のための税務訴訟』(税務研究会)
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